読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

#まるまるのとげとげ

☆は はてなでもらえるけれど もう少し探そうよ

性善説とレッドカーペット

 気がつけば財布を7年以上使い続けていた。ネットで買ったものの多くは、購入データさえ残っていれば自分がいつ買ったものなのか、遡りさえすれればだいたい分かる。

 世間では「財布は〇年事に買い換えると運気UP」なんて言うらしいが、アンティーク調の革の財布はかなり気に入って買ったものだったので、使い続けるのが意地みたいになっていた。ショッピングセンターでSALEの文字とともに山積みにされた財布の中から潔く次の1つを選ぶことに、気が乗らなかったのもある。

 だが、財布を指差され「あんたも辛抱してるのね」と言われた時、そんなに貧相に見えるのかと、少し凹んだ。そして財布を買い換えることを決意した。

 

 それから以前から気になっていたお店に、財布を見にいった。その店はお洒落なお店の立ち並ぶ通りにあって、店内には美術館の美術品のようにカバンや財布が並べられていた。

 そのお店を知ったのは、元を辿れば、好きなアイドルグループの推しメンがそこの財布使っていて「すごく使いやすい」とブログやinstagramに書いていたという至極単純な理由からだった。店員さんに聞かれた時には「“友人”が使っていて、ずっと気になってた」と口走ってしまったけど。推しメンが、友人になった瞬間(大嘘)である。

 それから店員さんに、推しメンが使っている財布と同じものを見せてもらって、とても感動した。が、稼ぎの違う推しメンと同じ値段の財布を買うことに急に罪悪感を感じている自分がいた。

 小銭入れを見ていてと、店員さんに「どんな使用感になるんですか?」と尋ねると、店員さんがちょっと待っててくださいね、と奥に引っ込んでいき、明らかに今使っているであろう小銭入れを持ってきてくれた。「実際に触って見てください」と小銭入れを手渡された時、ズキューンとなってしまった。

 商売とはいえ、自分の今使ってる財布を人に差し出せるか?いや無理無理。この人(あるいはこの店員さんに接客を指導したお店)性善説で生きてるのかな。買い物をしていて、こんなにも“日本”を意識させられたことが今まであっただろうか。お・も・て・な・し、って正直馬鹿にしてすみませんでした日本。ショップ店員の「私色違い持ってます(はあと)」ってみんなに言ってるような接客との大きな差に、心を射抜かれてしまった。

 この店の接客のやり方が正しいとは決して言わないけれど、そういう世界があるのだということに、びっくりした。本当は都会にも田舎にも、お金持ち向けの店にも庶民派の店にも、それぞれの形でお客さんのことを考えた商売というのはあるのだと思う。でもそういうことに気づくこともなく、私は日々を余裕なく生きてる。

 

 結局、そのお店で前の財布とは違った感じの、アンティーク風の長財布を買った。またアンティークか。私はアンティークに弱いのか。でも、自分がどういうものが好きなのか、また一つ知れた気がする。高かったけど、どうしても欲しかった。

f:id:Temaribana:20170102183749j:plain

 スナップをはずして開けると、小銭入れがガバっと開く。セールまで待っても良かったけど、その店員さんから買いたかった。

 

 会計時に私が使っている財布を出すと、店員さんは社交辞令だろうけど、「素敵な財布ですね」と言ってくれた。咄嗟に「もう7年も使ってるから、汚れて古くてパンパンになっちゃって」と言った瞬間、言ったそばから私は後悔した。なんでこんな素敵なお店で、自分はそんなことを言わなきゃならないのだろう。

 クリスマス前ということで店内に敷かれたレッドカーペットを歩き終え、店の出入り口に来た時、店員さんが言った「新しいお財布、楽しんで使ってくださいね」という言葉を、帰り道で反芻した。

 

 今思えば、貧相だったのは7年使った財布ではなくて、お気に入りにも関わらず、レシートとカードで、財布をパンパンにしていた私の方である。でも、新しいこの子はめちゃくちゃ大事にしてやるんだ。この子に見合う私に、早くなりたい。

 新たな財布にカードを引っ越しさせながら、これまでの財布にクリームを塗って、次の季節には衣替えしながら大事に使うと決めた。